« 東京サンシャインボーイズの甘い罠 | トップページ | 犬の心にゆったり感 »

2009年1月22日 (木)

不機嫌な赤いバラ

先日、暇つぶしに書店をフラフラして、何冊か本を買った。

その中に「夏の名残の薔薇」 (恩田陸)があったが、今回もそうなのだけれど、

私はこの人の本は、かなりの確率でタイトル買いをしている。

初めて買ったのが「三月は深き紅の淵を」で、次に選んだのが「象と耳鳴り」

その後何冊か読んだはずだが、タイトルに惹かれて読んだ前記二冊の印象が強い。

短編集である「象と耳鳴り」は特に好きで何度も読んだ。

象と耳鳴り
恩田 陸
4396631588

さりげなく静かな情景の中に立ち上がってくる謎に、思わず心惹かれる心地よさがあり、

推理小説としての面白さのみではなく、言葉の選び方がとても好みにあっている。

その中に「曜変天目の夜」というタイトルの一編がある。

私は曜変天目という言葉自体を知らず、この小説で初めて知ったのだけれど、

この想像力を掻き立てる魅力的なタイトルがとても印象深い。

「夏の名残の薔薇」はある映画のイメージを重ね合わせて物語が進められるため、

たびたびその映画のシーンが原作でもシナリオでもない、散文のような形で挿入される。

そのような流れで書かれたからなのか、作者の好みによるものかはわからないが、

登場人物たちの台詞の中には様々な映画や芝居についての叙述が見られる。

その中で気になったのは、ある芝居についての叙述で、「ある詐欺師グループの話」で

「詐欺の腕を磨くために作り話をリレーしていく練習」をしていて「聞き手の注意を引き、

なおかつ語り手を信用させるもっともらしい話をアドリブで繋ぐ」

これは恐らくMONOの「約三十の嘘」のことについて書かれているのに違いない。

同じ芝居を観ている人の数は同じ映画を観ている人の数に比べて格段に少ない。

だからこそその共有感覚は特別な思いがする。

そしてこの本を読んでいてふと思い出したのが映画「不機嫌な赤いバラ」

1994年公開のシャーリー・マクレーン、ニコラス・ケイジ出演のコメディータッチの映画

…らしい。

というのは何度も観たいと思いつつも、いつも見逃してしまっているので

内容についてはほとんど知らない。

ただシャーリー・マクレーンが元大統領夫人であるらしく、タイトルが彼女のことを

表しているのだろうことは想像できる。

観たいと思う理由は、内容ではなくこのタイトルだと思う。

そして連想ゲームのようになるが、この「不機嫌な赤いバラ」から思い出すのが

「星の王子さま」に出てくる、王子さまの星に咲く一輪のバラの花である。

星の王子さま―オリジナル版
Antoine de Saint‐Exup´ery 内藤 濯
4001156768

「星の王子さま」を初めて読んだのは二十年以上も前のことになる。

今改めて読み返しても、心に残るのは初めて読んだ時と同じ言葉であったりするのに、

その言葉の、記憶していた以上に切実な響きに驚く。

「砂漠が美しいのはどこかに井戸をかくしているからだよ」

王子さまの小さな星に咲く、高慢で嘘つきで我がままでずるい、そして

「ホロリとするほど美しい」たった一輪の花。

王子さまとその花の関係の切なさに。

王子さまとキツネの刹那的ではあるけれども確かな心の交流に。

王子さまと航空士の別れの、胸が締め付けられるような寂しさに。

それら全てに自らの心情を重ね合わせることが出来る。

「ぼくはあんまりちいさかったから、あの花を愛するってことがわからなかったんだ」

王子さまがそう言って逃げ出した花の元へ再び戻っていったように、

「あの花を愛する」ということ、そして「不機嫌な赤いバラ」は他者のみならず

自分の中にもあることに気づかされる。

|

« 東京サンシャインボーイズの甘い罠 | トップページ | 犬の心にゆったり感 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
「恩田陸」という名前は長男の机あたりで見かけたことがあったので、聞いてみると「三月は深き紅の淵を」は持っているけれど、他の二冊は無いとの返事。
以前は息子の読む本はほとんど借りて読んでいたのですが、最近は彼の読書量について行けていません。
同じ様に育てたつもりでも次男は物語が苦手。少し前まで読む本はパソコン関係の専門書がほとんどでした。
短編なら読むようになってきた彼に薦めるために「像と耳鳴り」を読んでみようかと思います。

「赤い薔薇」に「不機嫌な」とか「高慢」「我侭」といった言葉が付くのは近寄りがたいような特別な花、というような気がしてしまうからでしょうか。
「星の王子様」も読み返してみたくなりました。

投稿: つかさ | 2009年1月26日 (月) 10時55分

>つかささん
「象と耳鳴り」はやっぱり秀逸な短編集だと、読み直して思いました。
単に好みの問題なんですが、読んで気に入っていただけるとすごく嬉しいです。

薔薇はやはり外見の華やかさから、
「近寄りがたい」「高貴」「高嶺」
ひいては「高慢」「我侭」といった一般的な
形容の比喩的に用いられやすい花ではありますが、
「不機嫌」っていうのはちょっと異質かなと思ったんです。
絵的な形容を超えて中に踏み込んだ、温度を感じる
とてもいい表現だなぁと思って大好きでした。
「不機嫌な赤いバラ」
でも映画は観てないんですけどね。
もう観なくていいかなと思ってます。
タイトルだけで充分好きなので。

投稿: ニノ | 2009年1月27日 (火) 01時44分

こんにちは。
かなり時間が経ってしまいましたが、本の感想を少し書かせていただきます。それぞれの話について書くと膨大な量になってしまうので簡単に。
「象と耳鳴り」(前回”象”が”像”になってましたね。失礼しました。)はとても心地よく読み終わることが出来ました。
どれも面白かったのですが「給水塔」「ニューメキシコの月」は特に好きで「待合室の冒険」で関根春クンのファンになりました。ここでの春クンの行動は「相棒」の杉下右京さんに似ている様に思います。
読後この本は長男に渡り、代わりに「図書室の海」を渡されました。おそらくこちらの方が後に書かれたものだと思いますが、こちらもどの話も面白かったです。
今は「六番目の小夜子」を読んでいます。
この話には赤い薔薇の花がある意味を持って出てきます。
「象と耳鳴り」の中の「廃園」にも薔薇が出てきていましたね。

薔薇はやはり非日常を表すのに最も適した花なのだと思います。
特に赤い薔薇は。

長々と書いたのにあまりたいした感想じゃ無くてごめんなさい。


投稿: つかさ | 2009年3月20日 (金) 09時46分

>つかささん

なんとなく忙しいと言う程度の、それ以外特別な理由もないまま
ずるずると休んでしまっていました。

コメント頂いていましたのに長い間留守にしてしまい、
本当に本当に失礼しました。

本の感想をありがとうございます。
関根親子の独特の飄々とした雰囲気いいですよね。
私も春くんは好きです。
このシリーズがもっとたくさんあればいいのにとひそかに願っています。
それとも私が知らないだけでもうあるんでしょうか?

「六番目の小夜子」はドラマにもなっていましたよね。
随分昔に読んだはずですが、すっかり内容が抜け落ちていて、
薔薇のくだりは全く思い出せません。
もう一度読み直したくなりました。
「図書館の海」は未読なのでさっそく読んでみようと思います。

またお勧めの本があったら教えていただけると嬉しいです。

投稿: ニノ | 2009年4月30日 (木) 02時10分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/177526/43798997

この記事へのトラックバック一覧です: 不機嫌な赤いバラ:

« 東京サンシャインボーイズの甘い罠 | トップページ | 犬の心にゆったり感 »