不機嫌な赤いバラ
先日、暇つぶしに書店をフラフラして、何冊か本を買った。
その中に「夏の名残の薔薇」 (恩田陸)があったが、今回もそうなのだけれど、
私はこの人の本は、かなりの確率でタイトル買いをしている。
初めて買ったのが「三月は深き紅の淵を」で、次に選んだのが「象と耳鳴り」
その後何冊か読んだはずだが、タイトルに惹かれて読んだ前記二冊の印象が強い。
短編集である「象と耳鳴り」は特に好きで何度も読んだ。
象と耳鳴り
恩田 陸
さりげなく静かな情景の中に立ち上がってくる謎に、思わず心惹かれる心地よさがあり、
推理小説としての面白さのみではなく、言葉の選び方がとても好みにあっている。
その中に「曜変天目の夜」というタイトルの一編がある。
私は曜変天目という言葉自体を知らず、この小説で初めて知ったのだけれど、
この想像力を掻き立てる魅力的なタイトルがとても印象深い。
「夏の名残の薔薇」はある映画のイメージを重ね合わせて物語が進められるため、
たびたびその映画のシーンが原作でもシナリオでもない、散文のような形で挿入される。
そのような流れで書かれたからなのか、作者の好みによるものかはわからないが、
登場人物たちの台詞の中には様々な映画や芝居についての叙述が見られる。
その中で気になったのは、ある芝居についての叙述で、「ある詐欺師グループの話」で
「詐欺の腕を磨くために作り話をリレーしていく練習」をしていて「聞き手の注意を引き、
なおかつ語り手を信用させるもっともらしい話をアドリブで繋ぐ」
これは恐らくMONOの「約三十の嘘」のことについて書かれているのに違いない。
同じ芝居を観ている人の数は同じ映画を観ている人の数に比べて格段に少ない。
だからこそその共有感覚は特別な思いがする。
そしてこの本を読んでいてふと思い出したのが映画「不機嫌な赤いバラ」
1994年公開のシャーリー・マクレーン、ニコラス・ケイジ出演のコメディータッチの映画
…らしい。
というのは何度も観たいと思いつつも、いつも見逃してしまっているので
内容についてはほとんど知らない。
ただシャーリー・マクレーンが元大統領夫人であるらしく、タイトルが彼女のことを
表しているのだろうことは想像できる。
観たいと思う理由は、内容ではなくこのタイトルだと思う。
そして連想ゲームのようになるが、この「不機嫌な赤いバラ」から思い出すのが
「星の王子さま」に出てくる、王子さまの星に咲く一輪のバラの花である。
星の王子さま―オリジナル版
Antoine de Saint‐Exup´ery 内藤 濯 
「星の王子さま」を初めて読んだのは二十年以上も前のことになる。
今改めて読み返しても、心に残るのは初めて読んだ時と同じ言葉であったりするのに、
その言葉の、記憶していた以上に切実な響きに驚く。
「砂漠が美しいのはどこかに井戸をかくしているからだよ」
王子さまの小さな星に咲く、高慢で嘘つきで我がままでずるい、そして
「ホロリとするほど美しい」たった一輪の花。
王子さまとその花の関係の切なさに。
王子さまとキツネの刹那的ではあるけれども確かな心の交流に。
王子さまと航空士の別れの、胸が締め付けられるような寂しさに。
それら全てに自らの心情を重ね合わせることが出来る。
「ぼくはあんまりちいさかったから、あの花を愛するってことがわからなかったんだ」
王子さまがそう言って逃げ出した花の元へ再び戻っていったように、
「あの花を愛する」ということ、そして「不機嫌な赤いバラ」は他者のみならず
自分の中にもあることに気づかされる。
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